(この記事は一部訂正し再投稿しています)
社会人2年目の長男は無口で、話しかけても面倒くさそうな返事ばかり。
唯一言うことといえば、
お弁当よろしくね
くらい。
なんだ、こいつは!ほかに言うことはないんかい!?
と思いながらもおいしいお弁当を作ってしまう母。
空になったお弁当箱を見て、よしよし、と思う。
典型的な親ばかだ。
でも、はやくお弁当作りから開放されたい、そろそろうちを出て独り立ちしてほしい、と願ってもいる、息子をもつ母の心は複雑。
そんな息子がめずらしく風邪をひいて寝込んだ。
週末のことだ。
うちにいるときは、たいていゴロゴロしているのでさほど気にもとめなかったのだが
ポカリ(スエット)買ってきてくんない?
とかなり息苦しそうな鼻声でお願いされ、彼の様態が普通じゃないことに気づいた。
近所のスーパーにポカリを買いにいく途中、子どもたちが風邪をひいたときのことを思い出していた。
我が家はどういうわけか、みなそろって体が丈夫で、病気とは縁遠い。
子どもたちが小学校の低学年ころまでは、年に1度くらいは、3人のうちの誰か一人が風邪をひいたりすることもあったが、大きくなるにつれて病気で寝込むなんてことは滅多になかった、数年に1度、あるかないか。
毎年話題にのぼるインフルエンザも然り。
彼らが受験のときは念のために打ったけれど、それ以外は予防注射も打ってない。
にもかかわらず、なぜか、どうしたことか、インフルエンザにかからない。
予防注射を打ってもかかってしまう人がいる中、申し訳ないが、ありがたい話だ。
ところが、子どもにしてみると、たまには病気になってみたいと思うこともあったらしい。
病気になると、いつもよりやさしくしてもらえる、好きなだけ漫画を読める、テレビが見れる、ゴロゴロしていても誰からも文句を言われない、そして、寒くてもアイスが食べられる。
そう、
うちは風邪をひくと、スポーツドリンクとアイスの実を買うのが習慣になっていた。
長男が幼稚園の年少さんのころだったか、熱が出て食欲がなかったとき、当時、流行っていたアイスの実を食べさせてみたら喜んで食べたので、これはいけると思ったのが始まり。
そのころのアイスの実は、4種類(記憶はあやふやだが)の味が1つの箱に入っていた。
袋入りではなく、箱入りだった。
大人にはひとくちサイズのアイスの実も、4歳の子どもにはかなり大きくて、1粒で口いっぱいになった。
が、熱で赤い顔の息子はうれしそうにほおばっていた。
1月か2月の寒い時期だ。
寒いのにアイスなんか食べたらおなか痛くなるわ、などと言って、いつもならアイスなんて買ってもらえない。
だから、思ってもみない幸運にめぐり逢えてうれしかったに違いない。
そんな顔を見ながら、一刻も早く熱が下がってくれ!元気になってくれ!と願った母、そんな頃がとてもなつかしい。
そして、元気でピンピンしている妹はラッキーだった。
「おこぼれちょうだい」にありつけるのだ。
母は病気の子の世話で他の子たちに手がまわらないない、それを1箱ずつのアイスの実で納得させてしまった。
お母さんはかまってくれないけど、アイスの実が食べられる!
風邪ひいてないけど、外は寒いけど、アイス買ってもらえたー!
というラッキーな現実に、ホクホク顔の妹たち。
3人の誰かが風邪を引くとアイスの実を3つ買う。
アイスの実にはそんな思い出がある。
そうだ、久しぶりに買っていくか!
1リットル入りのポカリをかごに入れて、冷凍食品の売り場へ向かった。
いつの頃からかアイスの実は、袋入りで売られるようになった。
もう箱には入っていない。
そして、1種類の味しか入っていない。
でも、アイスの実、として売られていることに、
また会えてよかった!
懐かしい人に会ったようなノスタルジーを感じた。
私は〈梨〉と〈キウイ〉と〈ぶどう〉を買って帰った。
アイスの実、買っといたからね!
翌々日、息子は、何もなかったかのように平気な顔をして、いつもどおり出社した。
冷凍庫を空けたら、梨とキウイがなくなっていた。
味見できるかな、というひそかな期待は、はかなく散った。
残った〈ぶどう〉はゆっくりいただくとしよう。