HANAのおと

50代主婦hanaの雑記帳。おもしろい、役に立つ、覚えておきたいことをあれこれと書いています

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3年ぶり!葛飾応為の絵を太田記念美術館で堪能できました

葛飾応為(かつしかおうい)という絵師をご存知でしょうか?


その名前からわかるように、江戸時代の有名な浮世絵師・葛飾北斎と深いつながりがある女性、そう、北斎の娘です。

父、北斎の助手として、晩年の多くの作品に携わる一方で、自らも独自の作品を描き、美人画の名手と呼ばれています。北斎も「美人画を書かせたら応為に勝るものはない」と唸ったほどの腕だったとか。

先日、その葛飾応為の作品が、久しぶりに一般公開されたということで、都内にある太田記念美術館に行ってきました。
応為の絵も、それを所蔵する美術館も、とても素敵なので、ご紹介します。

ja.wikipedia.org

 

 

 

『眩~くらら』と〈吉原格子先之図〉 

 

葛飾応為を描いた小説『眩~くらら』



私が葛飾応為と〈吉原格子先之図〉のことを知ったのは、約5年前。
朝井まかてさんの小説『眩(くらら)』で、葛飾応為の生涯をもとにした小説を読んだのがきっかけです。
北斎という偉大な父を持った娘の生き様を、史実を踏まえたフィクションで、躍動感のある流れるような文体で描かれていて、とても興味く読みました。
北斎と応為を取り巻く人間模様に加えて、浮世絵が完成するまでの作業工程、こだわりの色を出すために(応為が)自分で絵具を作ったその方法、筆を手にしたときの研ぎ澄まされた空気、着物の柄の一つ一つまで手を抜かない絵師としての技量など、浮世絵に全く興味のなかった私が、180度方向転換、読後は浮世絵が見たくてたまらなくなるほどでした。
そして、朝井まかてさんの描く葛飾応為の生きざまに魅了されました。

この本の表紙に使われていたのが、応為の晩年の作品といわれている〈吉原格子先之図〉です。
この絵は版画ではなく筆で描かれた絵で、肉筆画といわれるものです。

葛飾応為が描く吉原の遊郭の風景、暗闇の中でそこだけが別世界のように明るく浮かんでいる遊郭の張見世に並ぶ遊女、彼女たちをのぞき込む客の姿が描かれています。

 

眩 (くらら) (新潮文庫)

眩 (くらら) (新潮文庫)

  • 作者:朝井 まかて
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/09/28
  • メディア: 文庫
 


『眩』では、応為の作品がどのようにして生まれたのか、数点を取り上げ、その絵が生まれた背景や作品への思い、彼女の内面についての描写があります。
この〈吉原格子先之図〉は彼女の晩年の作品といわれていて、この絵に向き合う応為の姿はとても印象的でした。
読後、カバーに記されていた太田記念美術館蔵へ、私は本物を見るために駆けつけました。

ところが、実際に行ってみると、お目当ての絵が見つからない。
間違いだったのかな?と恐る恐る美術館の方に尋ねたら、「今は展示していません」、そして「展示の予定も決まっていません」との返事に意気消沈。

ただ、所蔵されていることは間違いないので、とりあえずは太田記念美術館のTwitter(https://twitter.com/ukiyoeota)をフォローし、様子を見ることにしました。


すると、ラッキーなことに意外と早く一般公開の情報が流れてきたのです。

 

『眩』のドラマ化(NHK)を記念して葛飾応為の〈吉原格子先之図〉を公開します。

www.nhk.or.jp


やった~!
始めて太田記念美術館を訪れてから約1年。
念願の絵を見ることができました。

 

 

本物の絵を見たときの衝撃~〈吉原格子先之図〉

 

〈吉原格子先之図〉が飾られている場所は、そこだけが違う空間のように感じました。

実物は26.3×39.8㎝ですから、A3(29.7×42㎝)よりやや小さいくらいの大きさです。
想像していたよりはるかに小さいと思いました。が、見れば見るほど絵の中に奥行きが感じられ、小さいことなど忘れて見入ってしまいます。

夜の闇に浮かび上がる遊郭の張見世に座る遊女たちと、それを格子のこちらからのぞき込んでいる人々、お客の様子が描かれていて、自分もその人影のように絵の前に立ち尽くし、そのままそこから動くのを忘れてしまいそうでした。

www.ukiyoe-ota-muse.jp

 

 

赤と黒 光と影 150年もたったとは思えない鮮明な絵

まず私が目を奪われたのは、 絵具の発色の鮮やかさでした。
150年以上も前に描かれたとは思えないくらい鮮明であせた感がない。
その絵だけ別の時代に描かれたようにカラフルに見えました。
特に印象的な色は赤でした。
遊女が座る台に敷かれた毛氈の赤、着物や口紅、頬紅の朱色、微妙に違う赤の色が目に飛び込んできました。
また、着物の袂(たもと)からチラッと見える遊女の細い手の白さ、白粉や鼻筋にさっとひと塗りされた白。
外の闇や人影の黒。
夜道を照らすやわらかな提灯の灯りは、夕暮れの最後の赤みが残った空のような色でした。

まっすぐに引かれた何本もの格子・光と闇を隔てるもの

次に驚いたのは、まっすぐに引かれた線。遊廓の格子と、地面に落ちた斜めの影です。
まるで定規を使って引いたかのように、同じ細さで、同じ間隔で、同じ角度でまっすぐに描かれているように見えます。
これを筆一本で描いたのか!?
驚き以外は何も出てきませんでした。

ここまで描くのか、と思う細かい描写

 

遊女のなかでたった一人、顔がはっきりと見える人がいるのですが、彼女の顔はうつむき加減で、真っ赤な唇、目の上と頬にはうっすらと紅をのせ、鼻筋を目立たせるために白いハイライトも塗られています。

遊女一人ひとりの着物の色や柄、結い上げた髪、かんざしや化粧の仕方まで、それはそれは細かいところまで描かれています。
一人を除いて、格子の間から見えるのは顔や体の一部だけなのに、です。

格子の間からのぞき込んでいるお客の目が、果たしてそこまで見ているのかは疑問ですが。

かくし落款

できあがった書や画には、通常、作者の署名や印が押されていますが、この絵にはそれらしき署名も印もありません。
ただ、絵の中の3つの提灯に、それぞれ「応」「栄」「為」という文字が描かれているのが確認できます。とても小さな文字なので、よくよく気をつけて見ないとわからないのですが、応為本人の署名と確認されていて、かくし落款と呼ばれています。

遊女の儚さ、哀しさ、そこに同居する美を伝えるのに自分の名前を表立って出す必要はない、と思ったのでしょうか。
ほのかにともる提灯の灯りにさりげなく自分の名前を浮き上がらせた応為。
わかる人にだけにわかればよい、そんな声が聞こえてきそうです。

 

あれから3年、再び公開された応為の絵


2020年は太田記念美術館の開館40周年なのだそうです。
そこで
開館40周年記念 太田記念美術館蔵 肉筆浮世絵名品展―歌麿・北斎・応為

が開催され、3年ぶりにあの絵が公開されました。

左側に北斎の〈雨中の寅〉、右側に喜多川歌麿の〈美人読玉章〉、そしてど真ん中に〈吉原格子先之図〉がありました。展示の様子はこちら


平日の午前中、空いている時間を狙って行ったにもかかわらず、すでに絵の前には人だかり、後ろには長い列。その手前には脱いだ靴がズラリ。
覚悟を決めて、何度か並び直し、じっくり見ることができました。
次に見れるのはいつでしょう?
あまり遠くない先だといいのになぁ。

 

原宿にある浮世絵専門の美術館・太田記念美術館

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太田記念美術館は、山手線の原宿駅(表参道口)から歩いて5分ほどの場所にあります。(大通りからは外れた閑静な場所で、建物は小ぢんまりとしています)

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そして太田記念美術館は、主に浮世絵を専門とした美術館です。

手元のパンフレットによると、

・1980年に浮世絵専門の美術館として開館した。

・実業家の故・五代太田清藏が国内外から蒐集したコレクションをもとに設立され、収蔵品は約14,000点にのぼる。

・五代太田清藏は、浮世絵の海外流出を嘆き、日本で浮世絵が見られなくなってしまうようなことがないように、と蒐集を始め、そのコレクションは浮世絵の初期から末期までの代表的な作品を網羅し、また、保存状態の良好なものが多いことでも知られている。

・葛飾北斎や歌川広重などの人気絵師の作品を始め、貴重な浮世絵を間近に見ることができる。


というのがこの美術館の特色。


浮世絵は庶民の絵として親しまれていたが故に日本では価値が認められず、逆に海外では非常に評価が高く、すぐれた作品が海外に多く流出し、所蔵されることになりました。


太田記念美術館は、貴重な浮世絵を守るために私費を投じて作られた、数少ない美術館なのです。

 

靴を脱いで作品を見ることができる



地上2階、地下1階の建物で、メインフロアは1階です。
入ってすぐのところに、企画展の目玉となる作品が置かれているのですが、そこの足元は、手入れの行き届いたピカピカの板の間で、床から30㎝ほど高くなっています。
広さは、奥行きが畳を横に並べた幅で2畳分ほど、長さは同じく畳2畳を縦に並べたくらいでしょうか(個人的なイメージですが)
とにかく、靴を脱いで絵を見るというのは、私はここしか知りませんが、個人的にとても気に入っています。
板の間なので、作品の前にペタンと腰を下ろして鑑賞される方もあれば(人が少ないときに限られますが)、膝をついて作品の下の方をルーペでじっくり観察?される方もあります。
主催者から「靴を脱いでゆっくり見ていいよ~」といわれているようで、とても居心地がいいのです。

 

 石燈籠のある中庭が室内にある

もう一つ、私が驚いたのは、1階の狭いフロアの中心にある休憩所です。
長椅子が置かれ、石の燈篭が立っていて、足元には白い砂利が敷き詰められ、飛び石も置かれています。
そこに腰かけると、少し離れた先の正面に目玉の展示物が見える配置になっています。

人が少ないときに行ったことがないので、まだゆっくり腰を下ろしたことはないのですが、あの椅子に座ったら時間のたつのを忘れて、ずっと居座ってしまいそうです。
照明も明るくはないので(光による劣化を防ぐため)、とても落ち着ける空間です。

 

 展示物は毎月変わる

企画展が年に7回ほど予定されています。ただ、大半の企画展が前期、後期に分かれているので、展示内容は1か月ごとにかわっています。
展示場所に限りがあるためでしょうか、または、所蔵品の保存状態を良好に維持するための設定なのでしょうか、いずれにしても、同じ企画展でも先月と今月では内容が違っているということです。

昨年の春に、北斎没後170周年記念がありました。このときも、前期と後期があり、多くの作品を見ることができました。これまで、ほんの一部、有名な作品しか知らなかったので、たくさんの作品を生で見れたことで、浮世絵の魅力にハマりました。

 

こうして、毎月違った作品が展示されるので、数多くの浮世絵を見ることができます。ただ、2ヶ月通しの企画展で、気に入った作品を見つけてもう一度見たくて翌月に見に行ったけどもう見れなかった、なんてことが起こりかねないので、要注意です。

 2月15日からの展示はこちら↓です。

www.ukiyoe-ota-muse.jp


いつ行っても外国の方が多く見に来られています。
大きな美術館にはない日本の良さを感じられる美術館です。
平日、午前中が比較的空いているようですが、例外もありますので、余裕を持ってお出かけください。