この本を読んだとき、気持ちがとても楽になりました。
こうあるべきだ、
とか、
こうじゃなきゃいけない、
そんなふうに思い込んでいたことを
そっか、これでもいいんだよね
と思えるようになりました。
読み終わった後、少しが軽くなる絵本です。
『っぽい』~かんたんなあらすじ
ピーター・レイノルズ 文・絵
なかがわちひろ 訳
絵を描くのが大好きなラモン。
ある日、ラモンが描いた花びんの絵を見たお兄ちゃんに
なんだこりゃ?本物に似てないじゃないか、と大笑いされてしまいます。
それ以来、ラモンは
もっとじょうずに描かなくちゃ!
と、毎日、一生懸命に絵を描きはじめます。
でも、どれだけがんばっても、何十枚描いてもうまくいかない。
お兄ちゃんのあの笑い声が聞こえてくるようで、せっかく描いた絵もぐちゃぐちゃに丸めてポイッ。
とうとうあんなに好きだった絵を描くのをやめよう、そう決めます。
そのとき、
「あたし、このえがすき。」
と、妹のマリソルがくしゃくしゃに丸めた絵をもっていってしまいます。
実は、彼女の部屋にはラモンが捨てていた絵が、壁いっぱいに貼ってありました。
「このえは、ちゃんとかびんっぽいえだよ、かびんのきもちがするもん」
そういわれたラモン。
目の前の壁に貼られた絵をじっとみているうちに、
たしかになにかがつたわってくるなあ、たしかにそれっぽいなぁ、
と思えてきました。
そして、
そうか!それっぽい、でいいのか!
そう思えるようになったラモンは、久しぶりに笑います。
元気が出てきました。
再び絵を描きはじめます。
っぽい絵をかくのはおもしろい!いくらだってかける!
ラモンは、形のあるもの、形のないもの、言葉、気持ち、いろんなものを描きはじめます。
そして、とってもいい気持ちになれたのでした。
大人にこそ読んでほしい絵本
この本を読むとホッとするなぁ、
と思っていたら、おんなじことを長女が言いました。
「なんかいいね、ホッとするわ」
いまから5年ほど前、彼女が高校生のとき、悩み多き乙女だった長女。
私とぶつかることも多くありました。
何気ない会話をしていたはずが、ちょっとしたひとことにつっかかってきて、
「どうせ私なんか!」
が口癖のように出てくるのが日常。
鈍感なわたしは
「何か気に障ること言ったっけ?」
と思いながら、
「まあ、まあ、そんなに自分を卑下しないで…」
となだめて、なだめて、結局は失敗、の連続で、
「今日は普通にしゃべれると思たのに、またダメだったか…」
と、しんどい日々でした。
あの頃の私がこの本と出会っていたら
あの頃の彼女がこの本を読んでいたら
母も娘も、もう少し早く、楽になれていたかもしれません。
絵本だから素直に受け入れられることもあります
当時の長女がなぜあんなにブチ切れてしまったのか、本人に聞いても
あんまり覚えてない
そうなので、
あのときの苦労はなんだったの?納得いかんわ!
と思いますが、今の我々の良好な関係を築くためには通るべき道だったのだ、ということにしておきます。
それはさておき、
本物そっくりに見えないといけない!
うまく描かなきゃ!
こうじゃなきゃだめだ!
とがんじがらめに凝り固まってしまったラモンが、
この絵が好き。花びんの気持ちがするもん。
という妹のマリソルのことばに救われて、
これでいいんだ!やっぱり絵を描くのが好きだ!
と、本当に好きなことを見つけることができた時、
私自身も、
こうあるべきだ、こうじゃなきゃいけない
と思い込んでいたことが
あ、そうか、これでいいんだ
と思えて、心が軽くなったのです。
どうせ私なんて、何やってもダメなんだ!
と荒れていた長女。
絵本の中で、
こうじゃなきゃだめだ
と荒れていたラモンに当時の長女の姿がダブって見えました。
私もマリソルのように声をかけました。
ところが、全く彼女には響かなかった。
そんなこと言うのは、それはお母さんだからでしょ!
お母さんに私の気持ちなんて絶対にわからないよ!
と突き放されるばっかりでした。
この絵本には、不思議な力を感じます。
すべてのことがすーっと自然に自分の胸に入ってきて、あ、わかる、と響いてくる感じ。
どうせ、絵本の中だけの話でしょ、
なんてことは考えもつかない。
シンプルな言葉、単純な絵と色で描かれたやさしい雰囲気を持った絵、それらがうまーく調和しているからなのかな?
自分の心が荒れているとき、身近な人にいくら慰めてもらっても、
放っておいて!
もう、あっち行って!
と思うことがあります。
お互いのことがわかっているが故の意地の張り合い、甘え、いろんなことが邪魔をするのかもしれません。
そんな時には、絵本を開いてみると、心が落ち着きますよ。
それは、自分の全く知らない人から受け取るアドバイス、メッセージだからじゃないかと思います。
絵本の中の言葉は、胸に響くことが多くあります。
あ、そうそう、これわかる!という感覚です。
それらの言葉は、たくさんの言葉の中から選び抜かれた一語一句です。
目の前にいる人ではなく、知らない誰か、大人かもしれないし子供かもしれない相手、見えない誰かに、大切なメッセージを伝えるために選ばれた、シンプルで、短くて、わかりやすい言葉だからです。
私は絵本からもらったメッセージに勇気づけられ励まされ、たくさんの元気をもらっています!
『っぽい』は、優しくて大きな力を持った絵本です。
ぜひ、大きくなった人に読んでほしい絵本です。