(2020/3/10追記しました)
以前、陸上競技のハードル選手として活躍されていた為末大さんの記事を読みました。その中で、絵本『すてきな三にんぐみ』を手に話をされている為末氏。お母様に幼いころよく本を読んでもらった、それがきっかけで本が好きになった、との言葉(2019年9月30日読売新聞)が印象的でした。
読み聞かせの良さを再確認した記事でした。
私の好きな映画の中に、子どもと本と読書と読み聞かせ、を伏線に描いた面白い映画が2本あります。一方は本を読んでもらった男の子が想像した世界、もう一方は自分で本を読んだ男の子が想像した世界。どちらも男の子が1冊の本をから想像したファンタジーの世界を見せてくれます。二人の違いは、物語を読んでもらうか自分で読むかという点。物語を聞くのと読むのとでは、受け取り方に大きな違いがあることがわかります。
- 誰かに本を読んでもらうってこんなに楽しい!〈プリンセス・ブライドぬ・ストーリー〉
- 自分で読むとこんなにドキドキする〈ネバーエンディングストーリー〉
- 見る楽しさから体験する面白さへ・どちらも楽しい!本とのつきあいかた
誰かに本を読んでもらうってこんなに楽しい!
〈プリンセス・ブライドぬ・ストーリー〉
プリンセス・ブライド・ストーリーってどんな映画?
1987年製作のアメリカ映画。監督はあのロブ・ライナーです。
キャストはピーター・フォーク、フレッド・サベージ、ケイリー・エルウィス、ロビン・ライト、マンディ・パティンキン、ビリー・クリスタル、アンドレ・ザ・ジャイアントほか
1987年トロント国際映画祭でピープル・チョイス・アワード(観客賞)受賞作です。
はじめは本に興味がなかった彼
本よりゲームが好き!という男の子。
彼が風邪で寝ているところに、おじいちゃんがやってきて、本を読みはじめます。
その本の題名が『プリンセス・ブライド』。
古ぼけていて、分厚い本に男の子はまるで興味を示さないのですが、強引に語り始めたおじいちゃんにしぶしぶつき合って、お話を聞くのでした。
おじいちゃんが語る本《プリンセス・ブライド》のあらすじ
ある国でのこと、美しいプリンセスと若くてスマートな農夫が恋に落ちる。彼はプリンセスといっしょに暮らすためにお金を稼ぎに旅に出るが、海賊に殺されてしまったという知らせが入り悲しみにくれるプリンセス。
その後、彼のことを忘れられないまま、プリンセスはある国王と婚約させられ、その王のたくらみで命を狙われることに。
そこへ現れたのが黒い覆面の騎士。彼のおかげでプリンセスは助かり自由の身になるが、彼は国王の拷問にかけられてしまう。彼は死んでしまったのか?
そして、残されたプリンセスの運命はいかに!?
プリンセスと若者のラブストーリー、かと思いきや。
西洋剣術アクションの殺陣はキレッキレ、男同士の熱い友情もあり、さらに奇妙な生き物が出てきたり、海賊や巨人との対決など、ドキドキ、ハラハラ、わくわくするシーンもいっぱいで、男の子が大好きなものを集めてきたような物語です。
ちょっとまって、それ、好きじゃないな
ゲーム大好き少年を相手に、強引に読み聞かせを始めるおじいちゃん。いやいやお話を聞く羽目になった少年のやり取りが軽妙です。
「その本をよむの? プリンセスブライドなんてタイトル聞いただけでうんざりだ。おじいちゃんのセンス疑っちゃうよ」と不満顔の少年。
一方、おじいちゃんはそんな彼の様子もまったくおかまいなし。
とにもかくにもおじいちゃんの読み聞かせは始まり、仕方なく聞いている少年。
むかしむかしある国に…
スクリーンには物語『プリンセス・ブライド』のヒロインとヒーローである美しいプリンセスと若者のラブシーンが演じられていきます。
と、さっそく少年の横やりが。
待って!キスシーンはイヤだから飛ばしてよ
おじいちゃんが彼の希望通り、恋人たちのキスは飛ばして次に進みます。
画面はラブシーンからいったん少年の部屋に戻り、つぎに物語が再開したときはさっきまでの美男美女はいなくなり、荒野を走る馬にまたがる男だったりします。
彼が聞きたくない、といったところ私たちには見れませんから、物語もスキップ、映画のワンシーンもスキップされてしまうのです。
見ているほうは違和感を覚えるかも知れません。
なんだか話のつじつまが合ってない、こんな展開は不自然だって。
でも、この映像はおじいちゃんの語りに忠実にできているので、それでいいのです。
最期は「あの」シーンにも大満足!
このおじいちゃん、とてもお話が上手で、孫が食いつくツボをおさえて彼を物語のとりこにしていきます。
物語の後半で、よからぬ国王の手から美しいプリンセスを奪還した黒覆面の強い男。二人は追っ手からうまく逃げられるか否か、状況が緊迫してきます。そして、あと少しのところで追っ手に捕まり、プリンセスを助けた黒覆面の男は拷問にかけられて…という場面。
と、ここで死んじゃうなんて変だよ、敵は誰が殺すのさ?
急に男の子が叫ぶ声、それと同時に、映画は物語のワンシーンから一転、現実の世界、少年の部屋に戻ってきます。
彼はプリンセスを助けたけど、まだ悪者を倒してないじゃない、死んじゃうなんておかしいよ!と物語のとりこです。
その言葉を受けて、映画は、物語のワンシーン、先ほどの拷問の続きへと戻って行きます。黒覆面の彼の運命は、さあどうなる!?(これは見てのお楽しみ)
最初はあんなにそっけない顔をしていた子が、この変わりよう。
好きじゃない、と飛ばしたシーンも最後はダメだしなしで見せてくれる。
おじいちゃん、してやったりで満足そうな笑顔、そして誰もが忘れられないすてきな言葉を残して部屋を後にします。
この映画はおじいちゃんの語りと男の子の想像力でできている
自分の中に白い一枚のスクリーンがあると思ってみてください。
誰かにお話をしてもらうとき、耳から入ってきた言葉は、そのスクリーンに風景を描き出し、キャラクターを形作り、物語は映像となって動き始めます。
『プリンセス・ブライド』に出てくる巨大なねずみや大男、凄腕の剣士や美しいプリンセス、これらはどれもみな少年の想像力の賜物です。剣士の決闘や、とらわれたプリンセスの脱出劇も。彼が想像したとおりのアクションとなってスクリーンに映るのです。
私たちが見ているのは聞き手の少年の心のスクリーン。
彼の想像から生まれたオリジナル映画なのです。
そして、この映画の一番の観客は彼自身。そこが重要です。
映画の中の巨大ねずみは、とても本物とは思えないほど手作り感満載の代物なのですが、これは男の子がおじいちゃんのことばから想像した怪物。彼が、きっとこんな感じだったら面白いぞ、って想像した生き物だから、かっこ悪くても、リアル観が乏しくてもそれでいいのです。
お城の兵士や大臣の衣装や小道具が古くさく見えるのも、少年の想像による時代考証を経て生まれたから、と考えるとどうでしょう。こんなふうに自分の想像力が膨らんでいくって楽しいと思いませんか。
もし、話の展開がおかしいな、これは好きじゃないな、と思ったら男の子は
それ、変だよ!
と、ダメだしをします。
すると、そのシーンはおじいちゃんの編集作業によって修正され、男の子の好みの映画に生まれかわるのです。
これは読み手と聞き手が、二人がいるからこそできるお話の楽しみ方。
途中、話のつながりがおかしいな?と感じることが出でくるのは、途中でおじいちゃんの編集が入ってしまったから、と考えると納得できます。
また、決闘や拷問といった緊張感あふれるシーン、ハラハラする場面でも、なんとなく演技に余裕を感じる、どこか可笑しくなってくる、そんな印象を受けます。
アクションとしてはもっと追い詰められて切迫した感じになるんじゃない?と。
集中力や緊張感が足りないような、ゆるい感じが漂っているような。
その原因は男の子です。
男の子が物語を楽しんで見ているからです。
自分のスクリーンの映画を見ているからです。
自分が物語の主人公になって戦ってるわけではないから。
実際、彼は、サンドイッチをほおばりながらお話を聞いています。
そこには緊張感はいらないんです。自分に被害が及ぶわけではないのですから。
読んでもらうと物語を楽しむ余裕ができる
緊迫した場面でも、安心して見ていられる、その感覚はどこから来るのでしょう?
それは、男の子が自分で読まなくていいということにあると思います。
聞いているだけ、つまり受身なので、心から楽しめるのです。
ベッドの中で聞くだけでいいからなのです。
私たちは映画を見るとき、とても残虐でとか恐ろしくてとか、理由はともかく、見たくないシーンには目をつぶり、愉快な場面では声を出して笑い、その時間を楽しみます。
それと同じことを、お話を聞いている子どもは体験しているのです。自分が想像した映画を見て、心から楽しむことができるのが、読んでもらう物語なのです。
自分で読むとこんなにドキドキする
〈ネバーエンディングストーリー〉
ネバーエンディングストーリーってどんな映画?
1984年ドイツ、イギリス製作の映画。監督はウォルフガング・ペターゼン。
気の弱い少年バスチアンがある本と出会い、そこでくりひろげられるファンタジーの世界を描いた作品。永遠に子どものままの女王さま、白馬に乗って旅をする少年、高速で走るカタツムリ、山のよう大きな亀、死の影をまとった狼、などファンタジーの世界の住人は奇想天外。その不思議な世界観は大きな話題になりました。
危険な本と出合った少年バスチアン
この映画の主人公、バスチアン少年は、内向的でいじめられっ子。
ある日、いじめっ子に追いかけられて古本屋に逃げ込みます。
そこで見つけたのが皮の表紙で分厚くて大きな一冊の本『ネバーエンディングストーリ』。ところが、店の店主は「その本は危険だから、読んではいけない」といいます。どうしても読みたくなったバスチアン、店主の目を盗んで、本を持ち出し、屋根裏部屋にこもって読みはじめます。
本を読み、想像し、作り出した世界を、私たちに見せてくれます。
ここで登場する不思議な生き物は、彼が本を読みながら想像して作り上げたもの。
読み聞かせでも男の子がおじいちゃんの語りから想像するのとよく似ています。
自分で読んでも、読んでもらっても、想像力を働かせてファンタジーの世界を生み出す楽しさは同じです。
バスチアンが読むなぞの本《ネバーエンディングストーリー》のあらすじ
奇妙な形の不思議な生き物がくらしているファンタージェンという世界。そのファンタージェンに「無」という恐ろしい現象がおこり、森や川、生き物たちが消えはじめた。「無」は徐々に広がり、世界全体が消滅するという危機がせまり、女王は病に蝕まれている。その危機を救えるのはたった一人の少年。彼は、ファンタージェンを救うために旅に出ます。途中、愛馬を失い、人狼に襲われるという苦難をのりこえ、仲間に支えられ、どうにか女王の下にたどり着くことができたのものの、ファンタージェンはどんどん無になっていきます。ファンタージェンを救えなかったとうなだれる少年に女王は「あなたは勤めを果たしました」と答えます。その意味とは、そして。ファンタージェンを救うのはだれなのか?
古本屋の店主の誘惑「この本は危険だから読むな」
バスチアンはいじめっ子に追いかけられ、古本屋に逃げ込みます。その古本屋の店主は、バスチアンが興味を示し本の表紙に手をかけますが、「それは危険だ」読まないほうがいいと警告します。読むなといわれたら読みたくなるのが人の常。まんまと店主の作戦にはまったバスチアンは、いじめっ子に追われて逃げてきたことなどすっかり忘れて、本に夢中になっていくのです。
すべてお見通しでバスチアンを本へと誘った店主の手腕はお見事です。
りんごは全部食べずにとっておく
屋根裏部屋で本を読み始めたバスチアン。そのうち、外が暗くなるころになってもまだ読み続けます。途中、バッグに持ってきたりんごを食べるシーンでこんなことをつぶやきます。
まだ先は長いからのこしておかなくっちゃ
白馬と旅をする少年といっしょに旅をしているバスチアンだからこそのセリフ。
旅の途中でゆっくり休んでいる時間はない、先を急ごう
と、りんごを半分残してすぐに本に目を戻すのでした。
この映画はバスチアンの体験でできている
自分の目で文字追っていく=自分で読んでいると、いつの間にか物語の中に入り込んでしまう、物語の主人公になっているような感じがします。
自分の中のスクリーンを見るのではなく、スクリーンで演じる側になっている、それが自分で読んだときのおもしろさです。
おもしろくなればなるほど目が離せなくなり、手に汗握りながらスリルを楽しみ、時には涙を流しながら読んでいます。
そんなふうに物語を楽しんで読める子どもが、「無」から世界を救えるのだと教えてくれます。
先を急がなきゃ!のんびりなんてしていられない!
バスチアンは、底なし沼に沈んでいく愛馬をみて涙を流したり、崩れ落ちていく世界にハラハラしたり、物語の展開に一喜一憂していて、本の中の出来事が彼に直に響いています。
だから、プリンセスブライドストーリーの男の子のように、途中でちゃちゃを入れたり、そのシーンは好きじゃないからパス、と場面をとばしたりはできないのです。ましてサンドイッチをほおばりながらのんびりする余裕などはありません。
そして中断されることがなく読み込んでいくおかげで、前後のつじつまが合わなくなる、なんてこともなく、私たちは映画を違和感なく見れるのです。
つぎはどうなる?つぎはどうする? 緊迫した場面になればなるほど、臨場感が増し、ドキドキ、ハラハラする。そして、危険から助かったときのホッとした気持ち、困難を乗り越え成功したときの達成感は、主人公の体験そのもの。主人公の気持ちを直に感じること、それが、自分で読む醍醐味なのです。
見る楽しさから体験する面白さへ・どちらも楽しい!本とのつきあいかた
本を読んでもらうときと自分で読んだとき、感じ方は違うけれど、どちらも楽しいものです。
本を読んでもらった時は、物語の世界の外側から楽しめます。
頭の中のスクリーンで映画を見ているような感覚です。
そして自分で読んで読むときは、気づいたら自分が物語のなかに入り込み、物語を体験しているような感じです。
物語のヒーローといっしょに泣いたり笑ったり、戦ったり、ドキドキ、ハラハラ、手に汗握る体験ができるのです。
自分にとっての読み聞かせと読書とはこんな違いがあります。
そして、どんな形でもいいから、本の世界を楽しめる子どもたちがもっと増えるといいなぁと思います。
プリンセスブライドストーリーとネバーエンディングストーリー、タイプは違いますが、どちらも子どもの想像力が作り出したファンタジーの世界を見せてくれるとても面白い作品です。