不思議なタネから大きな豆の木が育つ、といえばご存知「ジャックと豆の木」ですが、不思議なタネから女の子が大好きなものが育っちゃう楽しいお話は知っていますか?
そんなちょっとユニークでかわいいお話を紹介します。
物語を書いたのはアストリッド・リンドグレーンというスウェーデンの作家。
『長くつしたのピッピ』や『やかまし村の子どもたち』などでご存知の方も多いかもしれませんね。
ふしぎなお人形ミラベル
アストリッド・リドグレーン 作
ビア・リンデンバウム 絵
武井典子 訳
偕成社
これはとってもふしぎなお話です。
あるところにブリッタ・カイサという6歳の女の子がいました。お父さん、お母さんと三人で暮らしています。
彼女はお人形がほしくてたまらなかったけれど、家にはお人形を買ってもらうほどの余裕はありませんでした。
そんなある日、家の前を通ったおじいさんがブリッタに小さな種をくれます。
彼女はその種を畑にまいて水をあげ、育てはじめました。
さて、どんな植物が育つんでしょう?
しばらくすると、種は芽を出しました。
でも土の中から出てきたのは緑色の見慣れた芽ではなく、ちいさな赤い帽子です。
もうわかりましたよね。
またしばらくすると、帽子の下から真っ白でふっくらしたきれいな顏が出てきました。
まだ目は閉じたままでしたけど。
そのとおり!
ブリッタもすっかりうれしくなりました。
あ、これはお人形だ!
ブリッタはせっせと水をやり、雑草をとり、世話をします。
土の中から生まれたお人形が、ちゃんと足の先まで育つのをがまん強く待ちます。
そして、とうとう念願の日がやってきます。
足の先まで育ったお人形にそっとさわると、足の下についていた根っこが「ぽきり」とおれました。
自分のお人形を手に入れることができたブリッタは大喜びです。
金髪の巻き毛、青いひとみ、ピンク色のほっぺ
赤いワンピースに帽子がとてもお似合い。
すると、おもしろいことが起こりました。
お人形はブリッタと二人きりになると動き出したのです。
自分のことを「ミラベルよ」と言いました。
歩くとき大きなかごを頭からすっぽりかぶってコップの水をひっくり返したり、高い台の上からミシンのふたに大ジャンプしたり。
パンケーキをぼろぼろこぼしちゃうかと思えば、ブリッタに新しい服を作ってもらって大喜びしたり。
ミラベルのしぐさひとつひとつにはらはら、ドキドキ、ワクワクそしてほっこり。
かわいくておしゃべりでおてんばなお人形にブリッタも夢中です。
心配そうに見つめたり、服を着せようと追いかけたり、すやすやと眠る寝顔をじっとながめたり。ミラベルを見つめるブリッタはお母さんそのもの。
やさしい気持ちにしてくれます。
作品集からのひとり立ち、ストーリーと絵のベストマッチ!
このお話は、1974年に出版されたリンドグレーン作品集16『親指こぞうニルス・カールソン』(岩波書店)の中に収められた短編です。
こんな本です。
いつ見ても図書室の本棚に並んでいる感じ…
ちょっと年代を感じる挿絵、
物語を読むのが好きな子なら読んでくれるかな~。
一方、こちらの絵本は日本で出版されたのが2005年です。
私は、この絵本に出会って初めてリンドグレーンがこんな面白いお話を書いていたことを知りました。
この絵を描いたのはピア・リンデンバウム、というスウェーデンのイラストレーター。
彼女がこの原作のミラベルをより明るく元気に現代によみがえらせてくれた印象です。
作品集のミラベルも読みましたが、ここまで元気でかわいくておもしろいミラベルはちょっと想像できませんでした。
作者と同じ国で生まれ、同じ言葉で育った人だから描ける世界なのかもしれません。
ミラベルが土の中からにょきにょきと生えてくるところや、あっちこっち飛び跳ねて庭をかけ回るアクティブな姿がとにかくかわいいです。
ユニークでクスッと笑える絵本が読みたいあなたにおすすめの1冊です。