先日、実家の母は庭いじりがお得意で、いろんな植物を育てています。
電話をかけると
「どうしてる?元気?」
「うーん、なんとかね。植物に癒されてるわ~」
こんな具合。
咲かないはずのシンビジウム
母はよく、ご近所さんからきれいな花や枝をわけてもらったり、自分で育てた花を配ったりして、いろんな花や野菜など植物を育てるのが趣味。帰省するたびに新しい花が増えています。
でもどんな花でも育つわけではなく、
「この花、誰それさんに何回分けてあげても枯れてしまうんやって」
とか
「これは、うちで何べん植えてもぜんぜんつかへん(根付かない)わ」
ということがあるそうです。
花ってその場所に合う、合わないがあるらしいですね。
おそらく土の問題なのでしょうが、何をどうすればよいのか私は花のことはよくわからないので
「ふーん、そうなん」
と聞き役専門です。
その母が、5月に入って、
「ちょっとな~、ストレスたまるわ~」
と言い出しました。
原因の一つは、体調がすぐれないこと。
熱はないけどのどが痛い。寝ていてものどが渇いて目が覚める、熟睡できない。
なんかスッキリせーへんのが嫌やね。
もう一つは、友だちと会えないこと。
75歳を過ぎていますが、出かけることが多く、栄養士の先生のお宅に料理や栄養学の勉強に行ったり、体操教室に行って体を動かしたりとアクティブな生活を送っていた母。行く先々で仲の良い友だちとおしゃべりするのが楽しみだったのに、コロナで教室もお休みになってしまい、しゃべる相手が減って物足りない。
「そやけどな…」
そして冒頭の言葉がつづきます。
「植物に癒されてるわ~、やっぱりきれいなお花みると、心が和むわ~」
それを聞いて思い出したのが、うちのシンビジウムのこと。
我が家には、長い間、花を咲かせることがなく、緑の観葉植物として生きてきたシンビジウムがあります。
実家で花芽がついているのをもらってきたのは20年くらい前のこと。その後、しばらくは毎年咲いていたのですが、5年くらいたった頃からぱったりと花をつけなくなりました。
これはあかん、と株をわけて植え替えたら、1度だけ咲いてくれました。
が、その後はついつい手入れを怠りました。
ベランダの手すりに吊りさげたまま放置すること10年近く。
それでも枯れずに、根と芽はどんどん出てきていました。
夏の暑さにも冬の寒さにも負けず、いつも緑でいてくれました。
強い子でした。
そのシンビジウムが何年振りかで花を咲かせてくれたのです。
ほったらかしにしていたのに、です。
ちょうど、コロナの感染が心配され始めたころに花芽が付きはじめ、外出制限が発令されたころに花が咲きました。
がんばっていこう!
って応援してくれてるような気がして、うれしかったです。
花咲かせてくれて、ありがとう!
花のもつ癒しの力を感じた瞬間でした。
そして、もう1つ、思い出した絵本があります。
ハナミズキのみち
『ハナミズキのみち』
文・浅沼ミキ子 絵・黒井健 金の星社
この絵本の作者は陸前高田市にお住まいの浅沼ミキ子さんという方です。
彼女は、絵本作家ではありません。一市民の方です。
これは、東日本大震災の体験をもとに描かれた絵本です。
浅沼さんには、当時25歳で消防団員だった息子がいらっしゃいました。息子さんは地震が起こったとき、避難所に住民を誘導し自分もそこで避難されていました。しかし、その避難所は巨大津波に呑み込まれ、息子さんは大勢の住民とともに犠牲になりました。遺体が確認されたのは、10日後だったそうです。浅沼さんは大きなショックを受け、自分自身を責める日々が続き、眠れない夜、呼吸困難に陥ることもあったそうです。そうして歳月が過ぎたある夜、息子さんが夢に現れて「みんなで話して決めたから、津波からの避難路にハナミズキを植えてほしい」そして、悔しさに満ちた叫び声をあげた後、静かな口調で「泣いてばかりいないで、楽しいことを思い出して」というと消えていったそうです。
このことがきっかけで浅沼さんは悲しみを乗り越え、一歩を踏み出すことができたそうです。悲しくて辛い体験から生まれた絵本、その中には、やさしいやわらかなピンクと白のハナミズキがたくさん描かれています。
成り行きを知っている私たちは、ページをめくる手を止めたくなります。
しかし、その気持ちを抑えこんで読み進む、と、やはり震災がおこります。
やりきれない気持ちに襲われます。
でも、さらにページをめくると
ハナミズキのやわらかくやさしい花が、もう悲しまないで、と語りかけてきます。
おかあさん、
いのちをまもる
ハナミズキを、
いっぱいいっぱい
うえてね。
ぼくが、
おかあさんや
おとうさんに
まもられて
大きくなったように、
ハナミズキの木を
ぼくだと思って
かわいがってね
あたたかく包み込むようなハナミズキが印象的です。
灰色の空から、ハナミズキの花がふってくる。
こころの中の暗闇にも少しずつ光が差し、やがて明るいやさしい色へと変わっていく。
最後まで読み終えた時、悲しみや苦しみの重さから解き放たれたようでした。
悲しみの中から生まれた深い言葉はとてもやさしく、胸に響きます。
ハナミズキのもつ癒しの力を感じる絵本でした。
<参考>