「夏といえば恐竜」というイメージがあります。
毎年夏になると開催されている恐竜展の影響ですね。
2019年は例年にも増して恐竜人気で沸いた記憶があります。
その火付け役は、北海道むかわ町で発掘された「むかわ竜」。
日本で新属新種に認定され「カムイサウルス・ジャポニクス」と命名された約7200万年前(白亜紀後期)の恐竜化石が展示されるとあって、恐竜博はいつにも増して大人気。
同時に化石ハンターという言葉もよく耳にするようになりました。
今回紹介するのは、元祖化石ハンターともいうべき人物を描いたお話です。
「彼」がアメリカの自然史博物館にやってきたとき、恐竜の骨格標本はひとつもありませんでしたが、彼が亡くなった年、1963年には同館の恐竜化石コレクションは世界最大規模のものになっていました。その大部分を発掘したのが「彼」だったのです。
『バーナムの骨―ティラノサウルスを発見した化石ハンターの物語』
『バーナムの骨 ティラノサウルスを発見した化石ハンターの物語』
トレイシー・E・ファーレン 文
ボリス・クリコフ 絵
片岡しのぶ 訳
光村教育図書
彼の名前はバーナム・ブラウン。
彼はのちに化石ハンターという名で世界的に名を知られる人物です。
彼は、あのティラノサウルスの化石を発見した人です。
バーナム・ブラウンは子どものころから周囲の人を驚かしていました。
畑を耕すお父さんのうしろで、サンゴや貝の化石を拾っては自分の部屋に持ち帰っていたのです。
ブラウン家の納屋は、バーナム少年が拾ってきた化石がいっぱいになるほどだったそうです。
ある日、バーナム少年は新聞でアメリカ西部で恐竜の化石が発掘されたことを知ります。
自分も新種の化石を見つけるぞ!
その時から彼の心に「化石ハンターになりたい」という気持ちが芽生えました。
大学生になったバーナムは、カンザス大学で古生物学を学び、化石発掘に参加。
そこで担当教授に「化石ハントの天才」と呼ばれるほど、たくさんの化石を発掘します。
1897年、ワイオミングでディプロドクス・ロングスとアパトサウルスの化石を発掘。
1898年、パタゴニアで4トン半にも及ぶ哺乳動物の化石を発掘。
1902年、モンタナ州で大量の化石を発掘。さらに見たことのない巨大な骨、恐竜の骨盤やほかの部位の骨を発掘する。しかし、雪のため作業は途中で中止。見つかった化石は持ち帰り調査。
1905年、再びモンタナ州で発掘を再開し、また大量の骨を持ち帰る。ジグソーパズルのようにバラバラの骨をつなぎ合わせる作業が続き、その骨の恐竜はティラノサウルス・レクス(王者の中の王者、戦うマシーン)と命名されるが、肝心の頭部がまだ発見されていなかった。
1908年、再度モンタナ州へ。そしてついにTレクスの頭蓋骨を発見。すべての骨を掘り出し、洗浄し、骨格が復元されたのは7年後だった。
7年という年月がたてば、小学生1年だった子どもは中学1年生になっています。
気の遠くなる話です。
しかし、それだけの年月をかけても化石発掘に情熱を傾け、最後までやり遂げた彼の執念とも言うべき情熱には、感服します。
さらに彼はティラノサウルスの発掘後も世界中を化石を求めて旅し、化石ハントを続けました。
バーナムは、恐竜の以外にも多くの動植物の化石を掘り出し、世界のだれよりも化石を集めたといわれています。
ゆくゆくは、ずば抜けて立派なことをして、みんなをびっくりさせるんだよーと、生まれてまもなくたくされた大きな夢を、バーナムはみごとに実現した。眠っていた恐竜を発見し、人々の前に連れ出すことで。
T.レクスは、絶滅してから6,600万年たつ今も、バーナムが発見した骨によって生きている。(p32,33より引用)
「バーナム」という名前に影響を与えた意外な人物
この本によると、バーナム・ブラウンの両親はサーカスが大好きだったそうです。
彼らが結婚した当時、アメリカではあるサーカス団が大変な人気を博していました。
彼らは当時のアメリカでは知らない人がいないほどの人気だった、といいます。
そして、彼の両親は、わが子にその愛すべきサーカス団のオーナーの名前をつけたのでした。
ゆくゆくはずば抜けて立派なことをして、みんなをびっくりさせるんだよ
という願いを込めて。
そのオーナーの名前とは…
P・T・バーナム
といいます。
19世紀アメリカで活躍した興行師です。
もうおわかりの方もいらっしゃるでしょう。
た映画 『グレイテスト・ショーマン』の主人公で、ヒュー・ジャックマンが演じたあのバーナムです。
絵本の中で、乳母車の中の赤ん坊を連れた男女が、興奮した様子で
ほらごらん、あれが有名なPTバーナムだよ!
と手を広げて大きな小屋の壁を指さしている姿が描かれています。
彼らの指さす先の赤い壁には、サーカス団の広告がありP・T・バーナムの肖像画が描かれています。
その顔は、ヒュー・ジャックマンとはかなり印象がちがいますが、あの映画のバーナムとT・レックスを発見した化石ハンターにこんな面白い縁があったとは!!
びっくりですね。
この絵本には、自分の好きな化石発掘の道をとことん歩み続けた人の一生が描かれています。
発掘現場の様子やいろんな種類の化石の絵は、壮大で迫力があります。
それとともに、バーナムが思い描く夢の世界がとてもロマンティックに描かれている場面もあります。
お子さんといっしょに、ぜひ読んでみてください。
大人の方が夢中になれる絵本です。